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柚木麻子 著『終点のあの子』

投稿日:2019-04-03 更新日:

柚木麻子さんのデビュー作で、プロテスタント系の私立女子校を舞台にした連作短編集です。

目次

  1. 作品概要
  2. スクールカーストを考える
  3. カーストを越えたひと夏の交流
  4. あの頃はまだ子供だった
 

1.作品概要

収録作品

『フォーゲットミー、ノットブルー』
『甘夏』
『ふたりでいるのに無言で読書』
『オイスターベイビー』

舞台は女子校、ひとクラス分の女子が集まればいろいろなタイプがいます。いわゆるスクールカーストも生じます。
この作品の登場人物は周りから見た描写だけでなく、それぞれの心理描写も的確でひとりひとりがとてもリアルです。
自分自身に思い当たる節があったり、ああこんな子いたな(あるいはいただろうな)と思わされたり。
本当に女子というものをよく見ているなぁと思います。

2.スクールカーストを考える

彼女達の高校1年時のクラスは全部で27人、6つのグループがありました。

真面目系

希代子(立花希代子)、森ちゃん(森奈津子)、美樹さん、えどやん、仁科さんの5人。
立花希代子は『フォーゲットミー、ノットブルー』の、森奈津子は『甘夏』の主人公。

同じ真面目系でも、星野さん率いる秀才組よりは親しげで、話しかけやすい子たちだ。でも、突然お昼によく知らない子をゲストに迎え入れることができるほど、柔軟ではない。

(本文より)

常に周りの目が気になったり、上位層に憧れたり。
奈津子は自分の階級の低さを嘆いていますが、彼女たちはスクールカーストの中位層ではないかと思います。

秀才組

星野さん、他は名前が出てこないので不明。

星野さんはいつも勉強の話ばかりしている。誰より成績が上だとか下だとか。

(本文より)

スクールカーストでは下位層に入るのでしょうか。私立のお嬢様学校が舞台と考えると、秀才であることが価値として認められる気もするので、中位層よりかも。

漫研メンバー

やっつん(保田早智子)、ミサッコ(内田美佐子)、間島さん、スーさんの4人と見られる。
保田早智子は『ふたりでいるのに無言で読書』の主人公のひとり。他に漫研の仲間として、「隣のクラスの前田さんとガッキー」がいます。

保田ちゃんというのは、保田早智子さんという内部生だ。目と目が離れた猫背で太めな女の子で、靴下をたるませ、のしのしと蟹股で歩く。地味な子たちとつるみ、ボーイズラブ漫画を読み、イラストを描いている。

(本文より)

周りからは敬遠されがちの、スクールカースト下位層と考えられます。
でも周りの目を気にするタイプではなく、本人達は自分の趣味と、同じ趣味を持つ仲間の世界で幸せに生きているのではと思います。

運動部系(?)

アッキー(秋川雅美)、ミチル、今井さん、他ではないかと見られます。
アッキーがバスケ部で昼休みにもバスケをしている話があったので勝手に運動部系としたけれど実際は不明。
また、アッキーは「からっとしている」タイプとのこと。共学だったら男女関係なく親しまれているのがこのグループではないでしょうか。
運動部には上位層のイメージがあるものの、このクラスの上位層は華やかチームなので最上位ではありません。中位層と考えられます。

サブカル好き

カトノリ、ななちゃん、他ではないかと見られます。

「EXILEを聴いている時点で、うちら的にはナシって感じ」
と莫迦にしたように顔をしかめるのは、音楽に詳しいカトノリやななちゃんたちだけだ。

(本文より)

周りから敬遠されるほどでもないけれど独特の世界を持っているグループで、漫研メンバーよりは中位層に近い下位層になるでしょうか。

華やか

恭子(菊池恭子)、ハヤッチ(早坂)、綾乃、美加(山下美加?)、マイ(舞子)の5人。
菊池恭子は『ふたりでいるのに無言で読書』の主人公のもうひとり。

現在、クラスは人気者たちが地味グループを圧倒している。彼氏持ちの恭子さんを中心とする華やかな女の子たちは、いつも自信満々だ。

(本文より)

メイクはばっちり、制服はお洒落に着こなして、彼氏がいることはステータス。クラスで一番華やかな、スクールカースト上位層グループです。

所属なし

奥沢朱里
高校1年だった前3作の7年後を描いた『オイスターベイビー』の主人公。
女子の仲良しグループやスクールカーストの外にいる、自由な存在です。

3人組より4人組になりがちだと思いますので、真面目系5人、秀才組4人、漫研メンバー4人、運動部系4人、サブカル好き4人、華やか5人、そして朱里の27人なのかなと思いました。

3.カーストを越えたひと夏の交流

» 以下ネタバレあり

『ふたりでいるのに無言で読書』で描かれる恭子と早智子の夏休みの交流。
学校と違ってグループがある訳でもない、周りの目もない、1対1の付き合いであれば仲良く出来るのに、集団の中では一緒にいられないふたり。
結局恭子が元の場所に戻ることを選ぶ、ラストのカラオケの描写が好きです。
早智子の好きな『マリリン・モンロー・ノー・リターン』を入れて、夏の間に彼女と親しくなったことを明かそうかと思う恭子。友人達が端から間違いだと決めつけて小馬鹿にする様子。恭子のやっぱりという諦めと、意思を持って行う演奏停止。
一方で早智子の恭子へのあこがれと、やっぱり同じ世界にはいられないという諦めが切ないです。早智子はこの夏の交流を誰にも言わないんだろうなぁと思いました。

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4.あの頃はまだ子供だった

» 以下ネタバレあり

『フォーゲットミー、ノットブルー』高校1年生の希代子も朱里も子供だったんですよね。
確かに自由奔放な朱里への苛立ちはあったでしょうが、希代子は朱里が嫌いでいじめた訳じゃない。思い通りにしたいとまで思った訳でもない。
ただ自分がすごく傷付いたことが伝えたかっただけ。
それを真っ直ぐ伝えるのでなく朱里にも同じ痛みを負わせることで思い知らせようという手段が幼稚でした。
希代子の取ったいじめという手段は、端から見れば一方的に希代子が悪いことになります。その背景にある彼女の傷は関係ありません。
そして朱里にも希代子の思い、希代子の負った傷は伝わらないでしょう。朱里にも何故こうなったか気付くことは出来ないでしょう。
高校生なんてまだまだ子供だなぁと、今、彼女達を外から見ていれば分かります。でも当事者に取っては分からないだろうことも分かります。

「わからない。でも、あの時はああするしかないって思っていた」

(本文より)

そして最終話『オイスターベイビー』で分かります。朱里もまた自分を守るために必死だったと。
何度も同じことを繰り返していた朱里。そんな彼女も最後にはこのままじゃ駄目だと気付いて一歩を踏み出していきます。
高校生の希代子と朱里は離れていくしかありませんでしたが、大学生の朱里が杉ちゃんと向き合うことが出来たのは、杉ちゃんのキャラクターはもちろん彼女達が大人になったからだなと思います。

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今中高生の女の子も、かつて女の子だったみなさんも、どこか共感出来る作品と思います。

(2019.05.07追記)
★『終点のあの子』と同じく女子校のあるクラスを舞台とした作品→少女達のフランス革命:柚木麻子 著『王妃の帰還』

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