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『ロミオとジュリエット』の日本語訳比較

投稿日:2019-03-31 更新日:

シェイクスピアの代表作のひとつである『ロミオとジュリエット』。
このブログではミュージカル『ロミオ&ジュリエット』についてふたつの記事で取り上げています。

舞台と原作の比較:ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』
ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』と原作の場面対応表

今回は上記記事でも触れている、私が読んだ『ロミオとジュリエット』の日本語訳3冊を紹介したいと思います。

目次

  1. 松岡和子 訳
  2. 小田島雄志 訳
  3. 中野好夫 訳
  4. 訳の比較
 

1.松岡和子 訳

ロミオとジュリエット シェイクスピア全集2
筑摩書房
初版:1996年

収録内容
ロミオとジュリエット
訳者あとがき
解説「死を印された恋」 中野春夫
戦後日本の主な『ロミオとジュリエット』上演年表

ちくま文庫からの一冊です。
他の2冊は場毎に場所が記載されていますが、松岡版には場所の記載はありません。
(中野好夫さんの注によるとシェイクスピアの原本に場所の記載はなく、後世の編纂者により追加されたものだそうです)
脚注があるため背景や言葉遊びの内容がつかみやすくなっています。
性的な意味を持つ冗談もしっかり注が入っているので少し生々しく感じられると思いましたが…

2.小田島雄志 訳

シェイクスピア全集 ロミオとジュリエット
白水社
初版:1983年

収録内容
ロミオとジュリエット
解説 蒲池美鶴

こちらは白水Uブックス(新書)のからの一冊です。新書だと一行が長いので句の途中での改行が少なく見やすいと思います。
個人的には3冊の中で一番読みやすかったですし、あちこちに登場する言葉遊びも分かりやすく面白かったです。
ただ注が一切ないのでこの1冊だけではつかめない部分がありました。

3.中野好夫 訳

ロミオとジュリエット
新潮社
初版:1951年

収録内容
はしがき
ロミオとジュリエット

解説

新潮文庫からの一冊です。
巻末の注は20ページ以上、解説は40ページ近くといずれもとても充実しています。
特に時間の経過についての注、シェイクスピアの時代の劇場について紹介された解説は作品を理解する助けとなりました。
3冊の中では最も古い訳なこともあり、一部言葉が古めかしいと感じました。

4.訳の比較

いくつかの場面を引用し、それぞれの訳を比べてみたいと思います。
※以下それぞれ松岡版、小田島版、中野版と記します。

プロローグ:ソネット

第一幕と第二幕のはじめには序詞がついています。いずれも原文はソネット(十四行詩)になっています。
まず第一幕プロローグの冒頭4行を引用します。

序詞役 いずれ劣らぬふたつの名家
花の都のヴェローナに
新たに噴き出すいにしえの遺恨
人々の手を血で汚(けが)す。

(松岡版)

序詞役 花の都のヴェローナに、
勢威をきそう二名門、
古き恨みがいまもまた、
人々の手を血にぞ染む。

(小田島版)

序詞役 舞台も花のヴェロナにて、
いずれ劣らぬ名門の
両家にからむ宿怨を
今また新たに不祥沙汰。

(中野版)

いずれもリズムよく読めるようになっていますが、小田島版、中野版の方がよりテンポがよいですね。
このテンポの差は第二幕プロローグのほうが顕著です。

序詞役 いまや過去の恋慕は死の床に横たわり
新たな恋がその跡を継ごうと熱意をいだく。

(松岡版)

序詞役 古き恋情いまはなく、
新たな愛ぞ生まれたり。

(小田島版)

序詞役 古き情火は消え果てて、
若き情けぞ萌え出ずる。

(中野版)

第二幕第二場:ロミオとジュリエットのやり取り

ふたりがお互いの気もちを確かめあう、『ロミオとジュリエット』の有名な場面のひとつを見てみます。

ジュリエット ああ、ロミオ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの?
お父さまをお父さまと思わず、名前を捨てて。
それが無理なら、私を愛すると誓って。
そうすれば私はもうキャピュレットではない。

(松岡版)

ジュリエット おお、ロミオ、ロミオ! どうしてあなたはロミオ?
お父様と縁を切り、ロミオという名をおすてになって。
それがだめなら、私を愛すると誓言して、
そうすれば私もキャピュレットの名をすてます。

(小田島版)

ジュリエット ああ、ロミオ様、ロミオ様! なぜロミオ様でいらっしゃいますの、あなたは?
あなたのお父様をお父様でないといい、あなたの家名をお捨てになって!
それとも、それがおいやなら、せめては私を愛すると、誓言していただきたいの。
さすれば、私も今を限りキャピュレットの名を捨ててみせますわ。

(中野版)

『ロミオとジュリエット』と言えば「どうしてあなたはロミオなの?」のイメージがあるでしょうか。
個人的には松岡版ジュリエットが一番気が強そうで、中野版ジュリエットはお嬢様感が強いと感じました。
松岡版、小田島版のジュリエットはロミオを呼び捨てにしており、中野版のみ「様」をつけて呼んでいますね。ちなみに中野版ではロミオがジュリエットについて話すときに「ジュリエット姫」と言っています。
一方ロミオの言葉はこのようになっています。

ロミオ その言葉どおりに受け取ろう。
恋人とだけ呼んでくれれば、それが僕の新たな洗礼。
今からはもうロミオではない。

(松岡版)

ロミオ 受け取ります、おことばどおり。
恋人と呼んでください、それがぼくの新たな洗礼、
これからはもうけっしてロミオではありません。

(小田島版)

ロミオ お言葉通り頂戴しましょう。
ただ一言、僕を恋人と呼んで下さい。すれば新しく洗礼を受けたも同様、
今日からはもう、たえてロミオではなくなります。

(中野版)

松岡版のロミオはぐいぐい引っ張っていきそうで、小田島版、中野版のロミオは物腰が柔らかな感じでしょうか。

第二幕第四場:洒落の応酬

ここで見られるロミオとマキューシオ(マーキューシオ)による洒落の掛け合いから一部を引用します。

ロミオ ごめん、マキューシオ、大事な用があったんだ。そういう場合は礼儀を欠くこともある。
マキューシオ そういう大事なご用があると、使い過ぎた腰が曲がらなくなるもんな。
ロミオ お辞儀ができないってか。
マキューシオ 見事に的を射抜いたな。
ロミオ うがった解釈のご開陳、痛み入ります。
マキューシオ 俺は礼節の鑑だからな。
ロミオ 礼節の華か。
マキューシオ 当たり。
ロミオ 花なら俺の靴の透かし模様になってるぞ。

(松岡版)

ロミオ まあ許してくれ、マーキューシオ、よんどころない用事でな。そういう場合は礼をまげてもやむをえんこともある。
マーキューシオ そういう場合は膝を曲げても礼をせねばならんこともある。
ロミオ おれの言うのは礼儀の礼、おまえの言うのは敬礼の礼だ。
マーキューシオ そうだ、きれいに言いあてた。
ロミオ それはまた麗々しいご説明。
マーキューシオ 礼節の好例さ、おれは。
ロミオ 好例とは鑑ということか。
マーキューシオ そのとおり。
ロミオ それならかがみこんでおれの靴を見ろ、玲瓏鏡のごとく磨いてある。

(小田島版)

ロミオ いや、これは失敬、マキューシオ。なにしろちょっと大事な用件があってね。
まあ、ああした場合は多少の欠礼は勘弁してもらおうよ。
マキューシオ すると、つまりなんだね、そうした場合は、七重の膝を八重に折らなきゃならないというのか?
ロミオ それは、君、敬礼、お辞儀だよ。
マキューシオ なるほど、まさにその通り。
ロミオ やれやれ、頭の下がる解釈だ。
マキューシオ そうさ、俺の礼儀のよいとこ、一つ見せたいね。
ロミオ 見せたいものは花よりも、だ。
マキューシオ やるぜ!
ロミオ 俺のこの靴、この花模様だ。

(中野版)

ここまでは松岡版と中野版の雰囲気が近いですが、このあとももう少し続く掛け合いを見ると三者三様の訳がなされています。
一番分かりやすくぽんぽんと掛け合いが進んでいくように読めるのは小田島版だと思います。中野版ではところどころに日本っぽさが感じられます。

いずれも色の違う訳であることが見て取れますね。好みも分かれるかと思います。
ではどれがおすすめか…というと難しいところですが、どれか一冊読むのであれば、まずは注と解説が充実している中野版がよいのではないでしょうか。
もちろんより深く楽しむには複数を読み比べることが一番だと思います。

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