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長月天音 著『ほどなく、お別れです それぞれの灯火』:一歩を踏み出す姿

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葬儀場を舞台とした『ほどなく、お別れです』の続編です。
★『ほどなく、お別れです』の紹介はこちら→長月天音 著『ほどなく、お別れです』:心を込めた見送りの儀式

目次

  1. あらすじ
  2. 主な新しい登場人物
  3. 葬儀場を舞台に描かれる世界
 

1.あらすじ

清水美空が葬儀場・坂東会館に就職して1年が経とうとしていました。“気”に敏感で死者の思いを感じ取りやすい体質の美空は、上司の漆原のもと葬儀の経験を積んでいきます。
漆原のような故人と遺族の思いに寄り添う葬祭ディレクターを目指す美空。そんな彼女に漆原はステップアップのための課題を提示します。一方、プライベートでは久々に出会った高校時代の友人・白石夏海から葬儀に関する相談を受けて…

2.主な新しい登場人物

白石 夏海(しらいし なつみ)

美空の高校の同級生。同じ美術部に所属していた。
スカイツリータウン内のアパレルショップに勤めており、久々に再会した美空にある相談を持ち掛ける。

» 以下ネタバレあり

海の事故で5年以上の間行方不明の兄がいる。葬儀場に勤めているという美空に遺体がなくてもお葬式が出来るのかと問い掛ける。

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坂口 有紀(さかぐち ゆき)

坂東会館の近くにある駒形橋病院に勤めている看護師。
終末期病棟を担当しており坂東会館の面々とも顔なじみである。

» 以下ネタバレあり

結婚を約束していた恋人が海で行方不明になって以来、戻ってこないと分かっていても前に進めずにいる。この恋人=夏海の兄・海路であり、夏海とも付き合いがある。

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水神(みずかみ)

坂東会館葬祭部の最古参。一見すると僧侶のような禿頭の人物。
外の現場が多く顔を合わせる機会が少ないため、「水神さんに会えた日は良いことがある」という謎のジンクスがある。漆原も彼には頭が上がらない様子。

3.葬儀場を舞台に描かれる世界

美空は“気”を感じることが出来るのか

前作『ほどなく、お別れです』の最後でずっと美空の側についていた姉・美鳥が美空の祖母と一緒に旅立っていきます。美鳥がいたことで美空の能力が強くなっている面がありましたが、今作でも美空の“気”に敏感な体質は変わらず、ご遺体と「対話」する様子も見られます。

訳ありの式

漆原は主に若者や不慮の死を遂げた人の葬儀を引き受けており、漆原の下についている美空も必然的にそのような訳ありの式に携わる機会が多くなります。
本作で描かれているのは「交通事故で亡くなった高校生」「自殺した高齢者」「幼い子供を置いて病死した父親」「鉄道事故で亡くなった女性」。いずれも葬儀を経て遺族の気持ちが動いていく様子が描かれます。

美空の成長

漆原についてから1年近くが経った美空に、漆原がある提案をしてきます。

「そろそろ次のステップを考えなくてはいけない時期かもしれないな」
漆原はじっと考え込むようなそぶりを見せる。
(中略)
「まずは、司会をやってみるか」

(本文より)

この司会をやるという提案は美空に取って目に見えないプレッシャーとなります。

» 以下ネタバレあり

美空が最初に司会をやるように言われたのは「自殺した高齢者」の式でした。小規模な式になるだろうとの漆原の見立てもあってのことでしたが、美空は故人と祖母を重ねて不安定になってしまいます。難しい遺族であることも踏まえて、このときは司会の話は立ち消えとなりました。
その後、「鉄道事故で亡くなった女性」のお通夜でいよいよ司会に挑戦することとなります。漆原の姿を見て学び、祖母と姉の前で繰り返し練習をし、前日には数時間にわたる特訓を行い…様々な人に支えられ、無事に本番を終えることが出来ました。

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少しひやりとするシーンもありましたが、美空なりに故人と遺族のことを考え、行動していく、美空の成長を見られる一冊です。

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