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少女達のフランス革命:柚木麻子 著『王妃の帰還』

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女子校を舞台とした作品で、目まぐるしく変わる状況、その中で必死に戦い成長していく女の子達の姿から目が離せない作品です。

目次

  1. あらすじ
  2. アンシャン・レジーム:最初のグループ
  3. 革命:グループと個人の変化
  4. 『終点のあの子』とのつながり
 

1.あらすじ

主人公・前原範子は女子校に通う中学2年生。気の合う仲間と楽しい毎日を過ごしていましたが、クラスで起きた「首飾り事件」もとい「腕時計事件」によりトップの座から陥落した滝沢(=王妃)をグループに迎え入れたことでその平和が乱されていきます。
滝沢を元のグループに戻そうと奮闘する範子達ですが、更なる人間関係の変化も生じ、クラス全体が大きく動いていきます。

2.アンシャン・レジーム:最初のグループ

『王妃の帰還』に登場する聖鏡女学園中等部2年B組には29人の生徒がいて、5つのグループに分かれていました。
文庫版の大矢博子さんによる解説で知りましたが、フランス革命と2年B組を重ねるにあたり、この5つのグループが身分制度と対応しているそうです。
冒頭で描かれる公開裁判をきっかけにこのグループが変化していきますが、まずは変化前の状態を記載します。

地味グループ

主人公の前原範子のほか、遠藤千代子、鈴木玲子、リンダ・ハルストレムの4人。
お嬢様学校である聖鏡女学園では収入の多い夫と専業主婦の妻という家庭が多い中で、片親だったり、母親が働いていたりと周りとは異なる家庭環境です。
クラスの中で最も目立たないポジションで、範子曰く「誰からも嫌われないように工夫しているから敵はいない」彼女達でしたが、滝沢をグループに迎え入れたことでクラスでの立ち位置を変化させていきます。
フランス革命では:革命時に力を持った農民達のイメージだそうです。

姫グループ

滝沢、村上恵理菜、野島、三輪、梅崎の5人。ブレーンは村上。
滝沢を中心としクラスの頂点に立っているグループです。
フランス革命では:トップということで王族のイメージと思います。

王妃こと滝沢については、下の名前も明かされています。

そう、王妃を下の名前で呼べるのはクラスで一人、恵理菜だけ。下々の者は口にするのもはばかられるほど美しい、彼女にぴったりなその名前。

(本文より)

「下々の者は口にするのもはばかられる」は範子視点でしょうが、一体どんな名前なのだろうと思いながら読みました。

» 一応伏せておきます

滝沢美姫(みき)というのがその名前です。
彼女を中心としたグループが「姫グループ」だったのは、いわゆるお姫様という意味と、滝沢美姫の名前に姫が含まれていることの両方が由来だったのかも知れませんね。

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ゴス集団

黒崎沙織、牛島、野添を含む6人。黒崎がリーダー。
どこかダークな雰囲気を漂わせた、ビジュアル系バンドやゴスロリっぽい漫画が好きなグループです。仲間内では楽しそうに過ごし他のグループには冷淡という彼女達ですが、あることをきっかけに範子達との交流を深めていきます。
フランス革命では:革命となると一番強い力を持つ商工業者層のイメージだそうです。

ギャルズ

内田、安藤晶子を含む8人。内田がリーダー。
華やかなものに飛びつくのが早い、女の子女の子したグループのようです。大所帯ですが結束は弱く、「あわよくば友達を捨ててでも上に行こうとする」という集まりです。
フランス革命では:貴族、伯爵達のイメージだそうです。

チームマリア

伊集院詩子、高柳を含む6人。伊集院がリーダー。
クリスチャンの家庭で育った優等生揃いのグループで、学園の顔とも言える聖歌隊あるいはハンドベル部に所属しています。いつも物静かに微笑んでいて、何を考えているのか分からないところがあると表されています。
フランス革命では:チームマリアの名前の通り、聖職者のイメージだそうです。

3.革命:グループと個人の変化

『王妃の帰還』は滝沢が姫グループを追われ、成り行きで範子達が彼女を自分達のグループに迎え入れたところから、クラスの人間関係が変化していきます。

滝沢(=王妃)

公開裁判を機に姫グループを追われ、地味グループに迎え入れられます。彼女を元のグループに戻そうと範子達が奮闘する中で、滝沢自身も変わっていきます。

» 以下ネタバレあり

最終的に滝沢は親友の村上恵理菜と仲直りをし姫グループのトップに戻ります。
クラスの中心であることは変わりませんが、人を見下した態度をとることはなくなり、そのカリスマ性を以て生徒会の役員にもなりました。

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安藤晶子

元々はギャルズの下っ端でしたが、滝沢と入れ替わる形で姫グループの一員となります。

» 以下ネタバレあり

その後、彼女が引き起こしたある事件がきっかけで姫グループも終われ、範子や滝沢と同じグループになります。
最終的にはギャルズに戻っていきますが、範子とも交流はあるようです。

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地味グループとゴス集団

» 以下ネタバレあり

滝沢を姫グループに戻そうとする中で、範子達は姫グループの次の標的とされてしまいます。そんな状況に耐えられなくなったリンダはGARASHAという共通の趣味からゴス集団の仲間に入ります。
そんなゴス集団と範子達はGARASHAをきっかけとして仲良くなり、黒崎が「うちのグループはそっちのグループとは地続きじゃん」と言う関係になります。

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遠藤千代子

物語が進むにつれて、範子と、一番の親友である千代子との関係にも変化が生じます。

» 以下ネタバレあり

滝沢を迎え入れてから範子は千代子をないがしろにしがちだったようです。我慢の限界を迎えた千代子はいきなり姫グループに加入します。
クラスのトップとなった千代子でしたが、実は姫グループに乗せられており、ある出来事でクラスの笑い者にされてしまいます。
この出来事がきっかけとなり物語は最後の戦いへと進んでいきます。最後の戦いを終えた範子の側には再び千代子が戻ってきます。

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前原範子

» 以下ネタバレあり

全ての元凶は村上恵理菜であるという結論に至った範子は、「村上の弱みを握っている」という安藤の力も借りて村上と戦うことを決意します。
この戦いの中で滝沢と村上は仲直り。滝沢は姫グループに戻っていき、範子は敗北感と「アンシャン・レジームはなくならない」という思いを抱きます。

一連の出来事を通して見た目は元通りのグループに戻った2年B組でしたが、そのグループは前とは確かに違うものになっていました。
グループには上も下もなく、グループ間の垣根も低くなりました。グループ同士、時にはグループを越えた個人同士の交流が起こるようになったのです。

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4.『終点のあの子』とのつながり

柚木麻子さんのデビュー作で、柚木麻子 著『終点のあの子』でも紹介した短編集『終点のあの子』。私立の女子校を舞台とし、グループ(スクールカースト)をはじめとした女の子同士の人間関係が描かれている点が近い作品です。
また、「GARASHA様」と呼ばれているビジュアル系バンドのボーカルのファンが出てくるという共通点もあります。『王妃の帰還』ではゴス軍団やリンダ。『終点のあの子』では『甘夏』に登場するミッツー。
ゴス軍団とリンダはGARASHAが来るという噂のレストランに行き、ミッツーはGARASHAが来るという噂のガソリンスタンドでバイトをし…手段は違うものの一目会いたいというその思いは一緒です。

ふたつの作品の世界は近いですが、『終点のあの子』の学校はプロテスタント系、『王妃の帰還』の聖鏡女学園はカトリック系なので別の学校と分かります。
主人公達の年齢も『終点のあの子』では高校1年生、『王妃の帰還』では中学2年生と差が見られます。個人的には『終点のあの子』の登場人物の方が全体に子供っぽいというか、『王妃の帰還』では範子をはじめ大きな成長が見られるなと感じます。

『終点のあの子』は痛みが残る作品でしたが、『王妃の帰還』の結末は幸せで、澄んだ風が吹くようなラストシーンでした。

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