目次
1.あらすじ
「顔も名前も忘れてしまった。それでも君に、また出会いたい」
(帯より)
10年前の「あの日」、明良が教室の窓から飛ばした紙飛行機を千花がキャッチしたことからはじまったふたりの関係。それから時が経ち、子供の誕生が近づいたある日、ふたりは事故に巻き込まれてしまいます。
そして目覚めたらふたりは高校生の姿、「あの日」の前に戻っていて…相手が自分の存在を知らなかったり、そもそも相手が見つけられなかったりする時間を過ごします。「あの日」を再現しないと同じ時が繰り返されること、繰り返す度にお互いのお互いに関する記憶が失われていくことに気付いたふたり。顔も名前も分からない中でそれでも一緒に生きていきたいと願うふたりのたどり着く先は…
2.主な登場人物
飛島 明良(とびしま あきら)
千花の夫。高校時代はサッカー部に所属していたが、怪我により引退を余儀なくされた。
高校2年生の5月28日、教室の窓から千花の似顔絵を描いた紙飛行機を飛ばした。
月本 千花(つきもと せんか)=飛島 千花
明良の妻。名前の千花はキンセンカから取って付けられた。
高校2年生の5月28日、明良の飛ばした紙飛行機をキャッチした。
宇崎 太郎(うざき たろう)
明良のクラスメイト。ミステリーやホラー、SFが好き。
元々明良とはほとんど接点がなかったものの、繰り返しの世界では親しくなる。
櫛名 静子(くしな しずこ)
明良のクラスメイト。
元々明良とはほとんど接点がなかったものの、繰り返しの世界では親しくなる。
小町 美歩(こまち みほ)
明良と同じ学年の生徒。「あの日」の前日、5月27日に暴行未遂に遭う。
藤見 糸(ふじみ いと)
明良の1学年下の生徒。実家は花屋を営んでいる。
谷口 有喜斗(たにぐち ゆきと)
糸のクラスメイト。生徒会に所属している。
3.美しい装丁
綺麗な表紙ですね。イラストはhikoさんによるもので、ご本人のツイートで全体を見ることが出来ます。
5/30発売の大城密さん著 『何度でも、紙飛行機がとどくまで』(KADOKAWA)の装画を担当させていただきました。こちらはカバー全体のイラストになります。どうぞよろしくお願いいたします! pic.twitter.com/qLy8CRR6s7
— hiko (@hiko_il) 2019年5月9日
描かれている人物はもちろん明良と千花でしょう。近くにいるのにお互いに背を向けている姿が、ふたりがお互いを探すものの見つけられない様子を表しているようですね。
その他にも物語を象徴するようなアイテムが散りばめられています。タイトルにも含まれており、物語の鍵を握る紙飛行機。千花の足元には花。明良が打ち込んでいたサッカーに、怪我で使っていた松葉杖。
» 以下花に関するネタバレあり
千花の足元には黄色、橙色、紫色の花が咲いています。細かくは描かれていませんが、黄色と橙色はキンセンカ、紫色はクロッカスでしょうか。いずれも彼女の名前にまつわる花です。
» ネタバレを閉じる
飛んでいる紙飛行機(私はずっと見ているとその数の多さにちょっと怖さを感じます)とタイトルの文字から風を感じる表紙だと思いました。
そもそもこの作品に興味を持ったきっかけは以下のツイートでした。風を感じる表紙繋がりです。
大城密さん『何度でも紙飛行機がとどくまで』の装画は額賀澪さん『風に恋う』の装画と同じhikoさんによるものでございます。そんな繋がりで読書幅を広げてみるのも楽しいですね!#hiko pic.twitter.com/j9PfMr7WWh
— くまざわ書店南千住店 (@ash1208kmzw) 2019年5月30日
★『風に恋う』の紹介と感想はこちら→部活動の光と影:額賀澪 著『風に恋う』
また、『何度でも、紙飛行機がとどくまで』は扉も素敵なデザインになっています。
裏面に描かれた女性の似顔絵(千花でしょうね)が表からうっすら透けて見えています。
4.何度でも、繰り返される時間
本作の登場人物達は事故をきっかけに2010年5月18日に戻ります。明良と千花が付き合うきっかけとなった「あの日」=高校2年生の5月28日の10日前です。
高校生に戻っていると気づいたふたりが最初にしたことはお互いに会いに行くこと。ところが千花の会った明良は妻だと主張する千花に戸惑い、明良の会った千花は明良の名前を憶えていない様子で…そんな中、ふたりはそれぞれに以下のことに気付きます。
- 自分が同じ時間の繰り返し=タイムループに巻き込まれている
- 「あの日」を再現しないとタイムループからは抜け出せない
- ふたりが「あの日」の前に接触すると失敗と見なされタイムループする
- 失敗した場合、お互いに関する記憶を失う
繰り返しの度にふたりの置かれる状況、周りで起こる出来事も変化していき、ふたりが巡り会うのも難しくなります。
(2020.01.12追記)
★タイムループの全貌は別の記事にまとめました→『何度でも、紙飛行機がとどくまで』のタイムループをまとめました(ネタバレあり)
明良と千花、そしてある登場人物の視点で描かれる物語を読み進めていくうちに、このタイムループの全貌と隠された謎が明かされていきます。作者の大城密さんは「SFな恋愛」と書かれていましたが、加えてちょっぴりホラーの要素があると思いました。