ちょっと変わった部活小説とでもいいましょうか。加納朋子さんの『少年少女飛行倶楽部』を紹介したいと思います。
目次
1.あらすじ
中学1年生の海月は「飛行クラブ」という怪しげな部活に入部することになります。
その活動内容だけでなく集まった部員達もまた個性的で、海月は周りに振り回されながらも空を飛ぶべく奮闘します。
加納朋子さん曰く「底抜けに明るい、青春小説が書きたくなった」とのことですが、明るく眩しいだけでなく、時には考えさせられる内容の作品となっています。
2.登場人物の名前はキラキラネーム?
まずは『少年少女飛行倶楽部』の登場人物を簡単に紹介したいと思います。
佐田 海月
本作の主人公かつ語り手。
ひょんなことから飛行クラブに入り、中心メンバーとして活躍してしまうことになります。
月夜の海からつけられた名前は「みづき」と読みますが、あだ名はクラゲから転じた「くーちゃん」です。
斎藤 神
海月のひとつ上の先輩で、飛行クラブの創設者かつ部長。
傲岸不遜、傍若無人、唯我独尊といった四字熟語の合うような変人で、しばしば悪気なく爆弾発言をしてきます。
名前は神と書いて「ジン」。天使(後述の通り、神の姉は天使という名前)を庇護する存在というのが由来です。
中村 海星
神の幼馴染で、名前はヒトデではなく「かいせい」です。
飛行クラブの副部長で野球部と兼部しているさわやかスポーツ少年です。
大森 樹絵里
海月の幼馴染で、海月を飛行クラブに誘った張本人です。
名前は「じゅえり」で、両親からの私達の宝石という思いが込められています。あだ名は「ジュジュ」。
立木 信長
飛行クラブの顧問で、神の担任。日本史好きの親に付けられた名前は「信長」ですが、気の弱そうな、信長のイメージからは程遠い先生です。
戸倉 良子
名前は「よしこ」と純然たる日本人ですが、海月の家では「イライザ」と呼ばれています。
なんでも、昔大流行した少女漫画の、意地悪な敵役の名前らしい。
(本文より)
作品名は明言されていませんが、『キャンディ♡キャンディ』のことでしょうね。
仲居 朋
高所平気症で怖いもの知らず、とある事情で入学から1か月学校に来ていませんでした。
名前は「とも」でなく「るなるな」と読みます。あだ名は「るーちゃん」。
彼女の母親曰く朋(るなるな)は明(さるな)と迷って付けた名前だそうです。
» 何故そう読むの?(一応伏せます)
月と書いて「るな」と読む、であれば察することが出来るでしょうか。
朋は普通に読めば「とも」ですが、これを月ふたつと捉えて「るなるな」と読ませることにしたそうです。
「さるな」については日=サンと月=ルナで「サンルナ」から転じた名前だとか。
» 閉じる
餅田 球児
野球部の新人でしたが、野球は好きではなく野球部を辞めたがっていました。
名前はそのまま「キュージ」で、甲子園を目指していた両親(選手とマネージャー)の期待が込められています。
斎藤 天使
神の3歳年上の姉で、名前は「エンゼ」と読みます。
他
名字のみ登場する人物として、矢島(海月達の学校の先生。吹奏楽部顧問)と星川(海月達が職業体験に行くスーパーの店主)がいます。
どこからがいわゆるキラキラネームなのかは個々人の感じ方にもよるでしょうが、ちょっと変わった名前の人物が多い印象です。
と言っても個人的に本や漫画ではキラキラネームもそれはそれでありと思っています。
変わった名前の人物がいたってそこはフィクションの世界です。名前に突っ込み始めたら切りがありません。
でもこの『少年少女飛行倶楽部』では名付けられた当人あるいは周りが困惑している様子が見て取れます。
斎藤先輩が、「確かに恥ずかしいな」とひどいことを言い、すごく他人事みたいにつけ加えた。「みんな、親に変な名前をつけられて可哀想に」
(本文より)
神様には言われたくないよ、とたぶんその場の全員が突っ込んだと思う……心の中で。
また、中には自分の名前に縛られている登場人物もいます。
「名付けってのはさ、みーちゃん。親の願いだったり祈りだったり、場合によっちゃ、呪いになったりもするものね」
(本文より)
名前は親から子への最初のプレゼントとも言われます。
そこに込められた子を思う気持ちが、願いや祈りでなく呪いになってしまうのであればとても悲しいことだと思います。
3.「空飛ぶ青春小説」
飛行クラブ、名前の通り「空を飛ぶ」ことを目的とした部活動です。そしてその空を飛ぶ」ことについても定義がされています。
1 あくまでも「自分自身が」飛行することを旨とする。
(本文より抜粋)
2 当然ながら、「落下」は「飛行」ではない。
3 航空機やヘリコプターなどでの飛行は除外される。
4 究極的には、理想を言えばピーター・パンの飛行がベストである。
パラグライダーやハンググライダー、「鳥人間コンテスト」のような人力飛行機…主人公の海月の言うとおりお金があれば空を飛ぶことも出来るでしょう。
(スカイダイビングは「落下」であって「飛行」にはならないでしょうか)
でも彼らは中学生。部活動で出来ることには限りがあります。そのような中で彼らの出来る飛行を探していきます。
4.どうやって空を飛ぶ?
本作では飛行クラブが挑戦(しようと)したことがみっつ登場します。
高い高い
まず彼らの中のひとりが、3歳くらいの子と父親による高い高いの光景に惹かれます。
(ずいぶんと体格のいい父親と書かれていますが、投げるのはちょっと危ないですよね)
もちろん中学生を気軽に高い高い出来る人がいる訳もなく断念します。
トランポリン
飛行クラブの目的に合致しそうな内容として、海月は市のイベントとして開かれるトランポリン体験教室に目を付けました。
いくつかのトラブルはあったものの飛行クラブの面々ははじめて飛びます。
しかしながら部長である神が土壇場で参加を辞退し、不完全燃焼のまま活動を終えます。
そんな飛行クラブが最終的にたどり着いた飛行はこちらです。
» 以下ネタバレあり
熱気球
海月は職業体験で行った先で店主の星川が昔乗っていたという熱気球を見掛けます。
何年も使われていなかった熱気球で再び飛ぶため、飛行クラブの面々は修理費集めに奔走します。
その過程で新たな部員も加わり、部員同士の結束も高まり、頑なだった神にも変化が見られるようになります。
彼らが行うのは係留飛行という熱気球をロープにつないで浮かぶものだったはずが…そう簡単には終わりません。最後の最後に大事件と冒険が待っています。
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ひとりひとりのキャラクターも丁寧に描かれている本作。「空飛ぶ青春小説」ということで中学生達の友情や恋も眩しいです。
特に(ここで引用はしませんが)最後の台詞は反則だと思います。