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「神様のカルテ」の意味するもの:夏川草介 著『神様のカルテ0』

投稿日:2019-04-21 更新日:

“優しさというのはね、想像力のことですよ”

(本文より)

『神様のカルテ』シリーズの前日譚となる短編集です。

目次

  1. あらすじ
  2. 新しい登場人物
  3. 「引きの栗原」エピソード
  4. 神様のカルテ
 

1.あらすじ

『神様のカルテ』シリーズは主人公・栗原一止の一人称で書かれていますが、『神様のカルテ0』は一止が主人公ではない話もあり、全編三人称で書かれています。

『有明』

一止達が大学6年の夏の話です。一止も登場し変わらない語り口が見られますが、物語の中心となっているのは進藤辰也です。
後に辰也の妻となる如月千夏も登場し、その後のふたりを知っているからこその切なさが感じられます。

『彼岸過ぎまで』

一止が本庄病院に就職する前年、『有明』と同時期の話です。
板垣(大狸先生)、乾、内藤(古狐先生)といったベテランの医師達が登場し、「24時間、365日対応」の看板を掲げたばかりの本庄病院の様子が描かれます。
辣腕だが冷ややかな人物として描かれている事務長・金山の背負うものと人間味に触れることが出来ます。

『神様のカルテ』

一止の医師1年目、研修医時代の話です。
はじめての患者を前に悩みながら進んでいく一止と、それを見守り導く大狸先生の姿が見られます。
本編でお馴染みの人物も登場していますが、外村さんがまだ救急部の副師長(『神様のカルテ』では師長)だったり、一止と東西直美がお互い丁寧語で話していたり、と時の流れを感じます。

『冬山記』

一止が医師2年目の冬の話と見られます。
冬の常念岳に登る人々が描かれ、後に一止の妻となる片島榛名が登場します。
『神様のカルテ』シリーズでは一止を照らす光のような存在の榛名ですが、その過去と強さの一端をうかがうことが出来ます。

2.新しい登場人物

『神様のカルテ0』で新しく出てきた登場人物です。

医療関係者

所属名前紹介
信濃大学医学部草木 まどか(くさき まどか)一止の同級生。有明寮所属。
元テニス部部長。
楠田 重正(くすだ しげまさ)一止の同級生。有明寮所属。
社会人として勤めたのちに医学部に入学した52歳。
信濃大学医学部付属病院小野寺 誠(おのでら まこと)有明寮出身で、一止の2年先輩の外科医。
草木まどかの元恋人。
本庄病院板垣 源蔵(いたがき げんぞう)
“大狸先生”
消化器内科部長。
『神様のカルテ』から登場しているが、『0』でフルネームが判明。

※“ ”内はあだ名

患者

『神様のカルテ』シリーズの患者の名前は松本市近辺の地名から付けられているものが多くあります。

名前紹介名前の由来
高山 仁平(たかやま にへい)総胆管結石患者、85歳男性。上高井郡高山村
國枝 正彦(くにえだ まさひこ)嘔吐で受診した72歳男性。
元は高校の国語の先生。

御嶽荘の住人、ほか

名前紹介
“専務”御嶽荘「椿の間」の住人。
金融機関に勤める社会人1年目。
勤め先の専務に一目ぼれをし、ことあるごとに専務の話をすることから名付けられた。
絹子(きぬこ)本庄病院事務長・金山の飼い犬。白い大型犬。

※“ ”内はあだ名

『冬山記』の登場人物

名前紹介
健三(けんぞう)50歳男性。ひとりで常念岳に来た。
布山 浩二郎(ぬのやま こうじろう)30代。夫婦で常念岳に来た。
布山 那智子(ぬのやま なちこ)
布山 浩介(ぬのやま こうすけ)浩二郎と那智子の息子。

3.「引きの栗原」エピソード

一止の研修医時代を描いた『神様のカルテ』は、本作品ではお馴染みの一止が救急外来の当直で引いているシーンからはじまります。
この時一止はまだ勤務4ヶ月目。短期間で「引きの栗原」というジンクスを築いており、大狸先生からもお祓いに行ったほうがいいのではと言われる始末です。

4.神様のカルテ

3篇目の『神様のカルテ』では、大狸先生の言葉から、本作品のタイトルにもなっている「神様のカルテ」という言葉に込められた意味が明かされます。

» 以下ネタバレあり

「人間にはな、神様のカルテってもんがあるんだ」
「神様がそれぞれの人間に書いたカルテってもんがある。俺たち医者はその神様のカルテをなぞっているだけの存在なんだ」

(本文より)

「神様のカルテ」は奇跡を起こす、神の手を持つ医師というような意味ではなかったのです。
医師に出来ることは限られており、無力な存在だと大狸先生は言います。
では何をすればいいのかと問いかける一止に、大狸先生は考えることだと返します。

「大切なことはな、栗ちゃん。命に対して傲慢にならねえことだ。命の形を作りかえることはできねえ。限られた命の中で何ができるかを真剣に考えるってことだ」

(本文より)

本作の國枝さん、『神様のカルテ』の安曇さん、『神様のカルテ2』の古狐先生…一止の対応の根底にはこの「限られた命の中で何が出来るか」があるのだと感じます。

» ネタバレを閉じる

一止が常に一止であり、変わらない信念を持っている姿を感じることが出来ます。
いずれも『神様のカルテ』の世界をより深く味わうことの出来る魅力的な短編集となっています。

★『神様のカルテ』シリーズに関する記事はこちら→夏川草介 著『神様のカルテ』シリーズに関する記事の一覧

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