「間違っていないことが、しかし通用しない世界というものが確かにある」
(本文より)
4年ぶりに発売された『神様のカルテ』シリーズの5冊目で、新章と名付けられているように舞台を大学病院に移しています。
目次
1.あらすじ
本庄病院から信濃大学病院へと移った内科医の栗原一止。診療に研究、後輩指導と、「24時間、365日対応」の本庄病院時代とはまた違う忙しい日々を送っています。
矛盾だらけの大学病院という組織、自分の目指す医療、後輩の真っ直ぐな思い…時には板挟みとなり悩みながらも、一止は一止なりの道を進んでいきます。
2.新しい登場人物
舞台が大学に移ったこともあり、多くの新しい人物が登場しています。もちろん本庄病院のメンバーも引き続き登場しています。
主人公の家族
名前 | 紹介 |
栗原 小春(くりはら こはる) | 一止と榛名の娘。2歳。 |
医療関係者
所属 | 名前 | 紹介 |
信濃大学医学部付属病院 | 今川(いまかわ) “弥勒様” | 救急部医師。 中宮寺の弥勒菩薩を彷彿とさせる。 |
新発田 大里(しばた だいり) “利休” | 4年目の消化器内科医。 思い切りのよい髪型と、医局でお茶をすする姿から一止は利休と呼ぶ。 | |
立川 栄太(たちかわ えいた) “番長” | 1年目の研修医。 研修初日に遅刻し、謝罪の最中に教授の名前を間違えたという武勇伝の持ち主。 | |
北条(ほうじょう) “鬼切” | 第四内科(消化器内科)第三班班長で助教。専門は肝臓。 天下の名刀・鬼切のように「切れる」ことから“鬼切の北条”で通っている。 | |
水島(みずしま) “大黒様” | 第四内科教授。 満面笑顔がトレードマークのつかみどころのない人物。 | |
宇佐美(うさみ) “パン屋” | 第四内科准教授。板垣(大狸先生)の同期。 大学病院の医療のあり方をパンに例えて話す。 | |
双葉 佐季子(ふたば さきこ) | 一止の1年後輩の病理医。 | |
古見(ふるみ) “毒蛇” | ベテラン看護師。病棟長。 研修医達から“七階の毒蛇”と呼ばれる厳しい人物。 | |
間宮(まみや) “サイボーグ” | 第三外科教授。 圧倒的メス捌きと、長時間の手術でも疲れを見せないことからサイボーグの名がつく。 | |
柿崎(かきざき) | 第四内科第一班班長で講師。専門は膵臓。 | |
鮎川 めぐみ(あゆかわ めぐみ) “お嬢” | 病理希望の研修医。 研修初日、自己紹介の際に教授から「お嬢さん」と注意された。 | |
木月(きづき) | 二木美桜の担当看護師。チームリーダー。 | |
安田(やすだ) | 第四内科第二班班長。北条の同期。専門は腎臓。 | |
川田(かわだ) | 放射線科医。 | |
川山(かわやま) | 看護ステーション「希望」の訪問看護師。 | |
更埴総合病院 | 牛山(うしやま) “北信の猛牛” | 内視鏡センター長。 普段は寡黙な人物だが、一度逆鱗に触れると凄まじい怒鳴り声をあげて相手を黙らせる。 |
※“ ”内はあだ名
患者とその関係者
名前 | 紹介 |
園原 今朝雄(そのはら けさお) | 誤嚥性肺炎患者。 |
園原 富子(そのはら とみこ) | 今朝雄の娘。元看護師。 |
青島(あおしま) | 重症膵炎患者。 |
二木 美桜(ふたつぎ みお) | 膵癌患者、29歳女性。 |
二木 理沙(ふたつぎ りさ) | 美桜の娘。7歳。 |
小波 拓也(こなみ たくや) | 百円玉を飲み込んで搬送された10歳の少年。 |
岡(おか) | 潰瘍性大腸炎患者。 |
御嶽荘の関係者
名前 | 紹介 |
大岡(おおおか) | 御嶽荘大家の息子。東京で勤めていたが、父親の体調不良を理由に早期退職して帰郷した。 |
3.大学病院での仕事
もちろん患者を診るのはこれまでと変わりませんが、大学では研究にも取り組んでいます。
一止がPCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応、DNAを増幅する方法)の実験に苦戦したり、なれないスーツに身を包んで学会に参加したりする様子が描かれています。
また大学では基本的にチーム単位で動いています。
一止が所属するのは信濃大学病院の第四内科(消化器内科、腎臓内科からなる)の第三班。
メンバーは班長の北条先生、9年目の一止、4年目の新発田。ここに研修医(最初は立川、続いて鮎川、その後また別の人)が加わります。
本庄病院時代、一止は年少の教わる立場でしたが、今は後輩がいて指導する立場になっています。
4.「引きの栗原」エピソード
『新章 神様のカルテ』の第一話『緑光』は一止が救急ヘリを迎えるシーンからはじまります。一止が引いているシーンからはじまるのはお決まりの展開のようです。
「引きの栗原」は大学病院に移っても健在で、救急部の今川先生からは、外傷が多いはずの救急ヘリであっても一止達が担当の時には内科の患者がやってくると言われています。
本作では本庄病院時代のように一度にたくさんの患者を迎えるシーンはありませんが、『緑光』『青嵐』『黄落』と救急ヘリを迎えているほか、二木さんに関しては救急患者に限らず引いている、と言われます。
5.前作までとの関連
自己免疫性膵炎
「しかしまあ、自己免疫性膵炎ってのは、相変わらず厄介な相手だな」
(本文より)
一止と次郎に取って苦い記憶となっている自己免疫性膵炎。『神様のカルテ3』に登場する島内さんのことを思い出しているようです。
医学的にはどうあっても説明のつかない出来事
長年連れ添ってきたおばあさんが亡くなったその日の夜に、そばに付き添っていたおじいさんがほとんど同時に亡くなるという現場に居合わせたこともある。医学的にはどうあっても説明のつかない出来事だ。
(本文より)
『神様のカルテ2』で登場する留川トヨさんと孫七さん夫妻のことですね。
この出来事、どうやら夏川さんの実体験をもとに書かれたもののようです(↓参考)
不思議をめぐる対談 上橋菜穂子×夏川草介 民俗学と物語(ファンタジー) | 小説丸
カレー屋「メーサイ」
一止と次郎が訪れるカレー屋「メーサイ」。
『神様のカルテ2』で一止が如月千夏と訪れ、以降千夏を目当てに通ったお店です。
松本紬
榛名が華やかな松本紬を着ているというシーンがありますが、この松本紬はもしかして『神様のカルテ2』で古狐先生の妻・千代夫人からもらったものでしょうか。
6.プライベートの変化
一止、次郎、辰也の3人のプライベートにもそれぞれ変化が訪れます。
栗原一止
表紙からも見て取れるように、一止と榛名に子供が生まれました。2歳になる女の子で名前は小春(こはる)といいます。
「小春」は旧暦の10月の異称で、秋の終わり~冬の初めの暖かい日を「小春日和」と言いますので、11~12月に生まれたのかと思いましたが、
- プロローグ(一止が大学病院3年目の春)の時点で2歳であること
- 一止が大学病院に移ってから生まれた子であること
から一止が大学に移った春に生まれたと考えられます。
とすると『神様のカルテ3』の時点で榛名は妊娠中…?そのような描写はなかったかと思うので少し気になります。
小春は生まれたときから股関節に異常があるため小児科に通っており、一止も通院に付き添っています。
と言っても経過は順調のようで、食べることが大好きで元気いっぱいな姿が見られます。
天真爛漫でかわいらしい小春の様子は、多忙な日々を過ごす一止はもちろん読者である私達をも癒してくれます。
ちなみに小春は一止と榛名をそれぞれ「とと(ちゃん)」、「かか」と呼んでいます。
一止が自分を「パパ」と言ったり「パパ」と呼ばれたりする様子は想像出来なかったのですが、「とと」はぴったりだと感じました。
砂山次郎
次郎も信濃大学病院で働いており、一止と学生時代からの行きつけであるカレー屋に行くなど変わらずの仲の良さがうかがえます。
» 以下ネタバレあり
『神様のカルテ』のときから本庄病院に勤める看護師の水無陽子と付き合っていましたが、交際4年となった本作でついに結婚します。
一止がそれを知ったのは7月、この時点で水無は妊娠しています。辰也、一止に続いて次郎も父親になる日ももうすぐですね。
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進藤辰也
辰也の娘・夏菜は5歳(途中で6歳)になり、一止の娘・小春との仲の良い様子も描かれています。
妻の千夏も月に数回松本を訪れています。
» 以下ネタバレあり
本作のエピローグ(12月、次郎の結婚式)ではその千夏と一止が久しぶりに顔を合わせます。
そして千夏は次の3月に東京の病院を退職し、松本の辰也のもとに戻ってくることを告げます。辰也が松本に来てから4年近く、そう考えると長い道のりだったのではと思います。
今後は千夏も本庄病院で働くということもあるのでしょうか?今後の展開が気になります。
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おまけ:外村
おまけという扱いは失礼かもしれませんが、本庄病院救急部師長の外村さんについても触れておきます。
» 以下ネタバレあり
一止が大学病院に移ったのち(本作の「昨年末」)、外村さんは本庄病院を辞めて乾診療所の看護師長になりました。その変わらない辣腕振りに一止は助けられます。
そして名字が外村から後藤になったそうです。『神様のカルテ3』では乾診療所で気になるやり取りが交わされていましたが、あの救急隊長の後藤さんと結婚したのですね。
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変わっていく環境の中で、物語の根底にあるものは変わらないと感じます。
次に一止達に出会えるのはいつでしょうか。まだまだ先の話かも知れませんが、いつの日か再び本庄病院で働く一止の姿が見てみたいものです。
★『神様のカルテ』シリーズに関する記事はこちら→夏川草介 著『神様のカルテ』シリーズに関する記事の一覧