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舞台と原作の比較 番外:『漫画 君たちはどう生きるか』

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「舞台と原作の比較:舞台を観る前に原作を読んだほうがいいか?」の番外編として漫画『漫画 君たちはどう生きるか』を取り上げたいと思います。

目次

  1. 作品情報
  2. 漫画を読む前に原作を読んだほうがいいか?
  3. 漫画と原作の比較
 

1.作品情報

『漫画 君たちはどう生きるか』

漫画:羽賀翔一
出版社:マガジンハウス

原作:『君たちはどう生きるか』

著者:吉野源三郎
出版社:岩波書店

本作は1937年、新潮社より『日本少国民文庫』の最終巻として出版されました。時代は第二次世界大戦の直前、既に言論・出版の自由は制限されている頃です。元々は『日本少国民文庫』を編纂した山本有三さんが執筆することになっていたものの、目の病気により執筆が困難となったため代わりに吉野さんが執筆することになったとのことです。
戦後には分量を減らしたものが出版されましたが、この岩波文庫版は1937年の初版に基づいているそうです。

またマガジンハウスからは漫画を描かれた羽賀翔一さんによる挿絵入りの新装版も発売されています。

2.漫画を読む前に原作を読んだほうがいいか?

私自身は漫画を読んでから原作を読みましたが、「原作と漫画のどちらが先でもよい」と考えます。

理由:時代が変わっても伝えたいメッセージは同じ

登場人物やエピソードに若干の違いはありますが、主人公のコペル君が様々な経験を通して成長していくという大きな流れは全く変わりません。
作中にはコペル君を見守る叔父さんが書き留めた「おじさんのノート」が登場しますが、漫画でも原作の文章がそのまま掲載されています。この「おじさんのノート」のページはイラストがなく(正確にはノートとノートを開く手が描かれていますが)、漫画と言っても文字の部分もかなり多い印象です。

3.漫画と原作の比較

目次

前述の通り大きな流れは全く変わりません。

原作漫画
一、へんな経験1、へんな経験
ものの見方について(おじさんのノート)ものの見方について(おじさんのノート)
二、勇ましき友2、勇ましき友 前編
3、勇ましき友 後編
真実の経験について(おじさんのノート)真実の経験について(おじさんのノート)
三、ニュートンの林檎と粉ミルク4、ニュートンの林檎と粉ミルク
人間の結びつきについて(おじさんのノート)人間の結びつきについて(おじさんのノート)
四、貧しき友5、貧しき友
人間であるからには(おじさんのノート)人間であるからには(おじさんのノート)
五、ナポレオンと四人の少年6、ナポレオンと4人の少年
偉大な人間とはどんな人か(おじさんのノート)偉大な人間とはどんな人か(おじさんのノート)
六、雪の日の出来事7、雪の日の出来事 前編
8、雪の日の出来事 後編
七、石段の思い出9、石段の思い出
人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて(おじさんのノート)人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて(おじさんのノート)
八、凱旋10、凱旋
九、水仙の芽とガンダーラの仏像(なし)
十、春の朝11、春の朝

本作の山場は『雪の日の出来事』を経てのコペル君の反省と成長だと思いますが、漫画では『水仙の芽とガンダーラの仏像』のエピソードがないこと、また冒頭で『雪の日の出来事』に触れることでよりその色が強くなっていると感じました。

登場人物

漫画の主な登場人物は主人公のコペル君、お母さん、お母さんの弟である叔父さん、友達のガッチンこと北見君、水谷君、浦川君、クラスメイトの山口君です。これらの登場人物は原作にも登場します。
原作の叔父さんは「大学を出て間もない法学士」ですが、漫画の叔父さんは「元編集者」となっています。漫画の方が少し年上の設定でしょうか。
漫画に登場しない人物としては水谷君の姉のかつ子さんが挙げられます。かつ子さんは『ナポレオンと四人の少年』でコペル君達にナポレオンの話を聞かせますが、漫画では叔父さんが話をしています。

» 以下山口君に関するネタバレあり

山口君達が浦川君をいじめており、止めようとしたガッチンと山口君が喧嘩になるのは原作でも漫画でも同じです。漫画ではこの出来事が原因で山口君が兄に北見君への仕返しを頼み、『雪の日の出来事』に繋がっていきます。
一方原作では山口君も北見君も上級生から目を付けられており、ふたりが殴られるという噂になっています。

» ネタバレを閉じる

時代の違い

原作にのみ登場するかつ子さんは活発ではっきりとした女性であることが見て取れますが、彼女の描写には特に時代を感じる部分があります。

「おめでとう。」
と、コペル君も答えましたが、そう答えながらコペル君は、オヤオヤッと思いました。水谷君の姉さんは女の癖に、コペル君たちと同じように、ズボンをはいているのです。

(原作より)

これは今だったらあり得ない表現でしょうね。もちろんかつ子さんが登場しない漫画では見られません。
またかつ子さんがナポレオンについて話す中で、戦争は怖いけれど、と語るくだりにも時代が反映されています。

「だけど人間は、英雄的精神に燃えれば、そのこわさを忘れてしまえるんだわ。どんな苦しいことでも乗越えてゆく勇気がわいて、惜しい命さえ惜しくなくなってしまうんだわ。あたし、それが第一すばらしいことだと思うの。人間が人間以上になることだもの――」

(原作より)

前述の通り漫画でナポレオンの話をするのは叔父さんですが、当然のことながらこの台詞にあたる表現は出てきません。

そして本作の山場である『雪の日の出来事』の背景にも差が見られます。

» 以下ネタバレあり

漫画で北見君が狙われたのは、浦川君へのいじめを止めようとして山口君と喧嘩になったことが原因です。山口君が兄に北見君への報復を頼みました。
一方原作では「学校の気風を引き締めなければならない」と考えている上級生達に、自分の思ったことを言う北見君が生意気だと目をつけられて…となっています。

「愛校心のない学生は、社会に出ては、愛国心のない国民になるにちがいない。愛国心のない国民は非国民である。だから、愛校心のない学生は、いわば非国民の卵である。われわれは、こういう非国民の卵に制裁を加えなければならぬ。」
というのが、その人たちの主張でした。

(原作より)

背景が違っても、一緒に殴られようという約束をコペル君は守ることが出来ず、その後大きな後悔に苛まれるのは同じです。

» ネタバレを閉じる

現代には合わない表現を変えて広く手に取りやすい形にした『漫画 君たちはどう生きるか』ですが、込められたメッセージは原作と変わらず、いつの時代にも通じる普遍的なものだと思いました。

★他の作品についてはこちらから→舞台と原作の比較:舞台を観る前に原作を読んだほうがいいか?

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