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辻村深月 著『かがみの孤城』

投稿日:2019-11-09 更新日:

2018年の本屋大賞第1位、第6回ブクログ大賞(小説部門)などを受賞された辻村深月さんの長編小説です。

目次

  1. あらすじ
  2. 登場人物
  3. 7人が集められた“城”
  4. 7人に関する謎
  5. “城”に関する謎
 

1.あらすじ

学校に行けず家に閉じこもっていた主人公・こころ。ある日、自分の部屋の鏡から不思議な“城”に呼ばれました。“城”にはこころを含めて7人の中学生が集められており、「ここは願いが叶う城だ」と告げられます。
時にはぶつかりながらも段々と絆を深めていくこころ達。でも現実の世界は決して優しいものではありませんでした。
7人が集められた理由、それぞれの抱える事情、この“城”は何なのか、少しずつ明かされていく事実の先に待っているものは…?

2.登場人物

“城”の関係者

名前本文より紹介
こころ本作の主人公。雪科第五中学の中学1年生の女の子。いじめにあったことをきっかけに学校に行けなくなった。
リオンジャージ姿のイケメンの男の子。中学1年生。こころの第一印象は「芸能人みたいにかっこいい」。名前は理音と書く。サッカーが好きで得意。
アキポニーテールのしっかり者の女の子。中学3年生。明るくて快活そうな背の高い子。城に行ったこころに対して最初に話しかけた。
フウカ眼鏡をかけた、声優声の女の子。中学2年生。おかっぱみたいな髪型をしている。
マサムネゲーム機をいじる、生意気そうな男の子。中学2年生。分厚いレンズの眼鏡をかけていて、目つきが悪い。
スバルロンみたいなそばかすの、物静かな男の子。中学3年生。不思議な雰囲気がある、ひょろっと背の高い子。
ウレシノ小太りで気弱そうな、階段に隠れた男の子。中学1年生。ウレシノは名字で、嬉野と書く。見た目からして食いしん坊そうで、城に食べ物があるかを気にしていた。
“オオカミさま”小学校低学年くらいの見た目の、狼のお面をつけた女の子。こころたちを城に招いた人物で、自分のことを“オオカミさま”と呼ぶように言う。

その他

名前紹介
こころの両親こころの家族は父、母、こころの3人。両親は共働き。
真田 美織(さなだ みおり)こころのクラスメイト。バレー部に所属し、学級委員長も務める活発な子。あることをきっかけにこころをいじめはじめた。
東条 萌(とうじょう もえ)こころのクラスメイト。こころの家の2軒隣に引っ越してきた転入生。日本人離れした整った顔立ちのかわいい子。
伊田(いだ)先生こころの担任の若い男の先生。
喜多嶋(きたじま)先生こころが見学に行ったフリースクールの先生。女性。こころと同じ雪科第五中学の生徒だった。

3.7人が集められた“城”

こころ達が集められたのはエメラルドグリーンの床、立派な門、玄関を入った大広間には大時計…といった「西洋の童話で見るような」城でした。
“オオカミさま”曰くここは願いが叶う城で、城の奥にある“願いの部屋”に入ると願いをひとつ叶えることが出来るとのこと。ただし、“願いの部屋”に入るには“願いの鍵”が必要で、願いを叶えられるのは鍵を見つけたひとりだけです。
合わせて城でのルールとして、以下の内容が説明されています。

  • 城にはそれぞれの鏡で出入り可能。
  • 城が開くのは朝9時から夕方5時まで。期間は3月30日まで。
  • 誰かが鍵を見つけて“願いの部屋”を開いた時点で城は閉じる。また、3月30日までに鍵が見付からなかった場合もそれ以降城に入ることは出来ない。
  • 夕方5時を過ぎて城に残っていた場合、ペナルティーとしてその日城を訪れた全員が狼に食べられてしまう。
  • 城には入れるのは招かれたこころたち7人のみで、他者を招くことは出来ない。

これらのルールを守れば基本的には過ごし方は自由で、本やゲーム、お菓子などの持ち込みも可能。各自の部屋まで用意されています。
またこころ達が城で過ごしていくうちに、以下のことも分かっていきます。

  • “願いの鍵”は個々の部屋ではなく、共用のスペースにある。
  • “願いの鍵”だけでなく“願いの部屋”自体も場所が分かっておらず、探す必要がある。
  • それぞれの鏡から他者の部屋へ行くことは不可能。
  • “願いの部屋”で願いを叶えた時点で城での記憶は全て失われる。3月30日まで願いが叶えられなかった場合、城が閉じた後も記憶は残る。

願いを叶えられるのはひとりだけ、そして、その願いを叶えることで城での日々を忘れてしまうという事実は、こころ達の間に波風を立てることになります。

4.7人に関する謎

何故この7人が集められたのか?

城が開いているのが日中であることもあり、こころは最初何らかの事情で学校に通っていない子が集められたのだと考えていました。
気を遣ったのか単に言い出せなかったのか、お互いのことをよく知らないままでいたこころ達ですが、城で過ごすうちに段々とお互いのことが分かってきます。

» 以下ネタバレあり

まず途中でリオンの置かれた状況が他の子と大きく異なることが分かります。リオンは日本の学校ではなく、ハワイにある寄宿舎付きの学校に通っていて、城を訪れるのは現地時間の夜=日本時間の昼なのでした。
そしてある日アキが制服姿で城に現れたことから7人の繋がりが判明します。皆口々にアキの来ていた制服が「自分(の学校の女子)と同じ」と言い、それを聞いたリオンもまた「オレが通う予定だったとこだ」と言います。
集められた7人の共通点は「雪科第五中学に通う予定だったけれど通っていない」こと。同じ学校に通う生徒だったという事実は、自分達はお互い助け合うことが出来るのではないか、と、こころ達を勇気づけます。

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城以外で会うことは出来るのか?

前述の通り、城には7人それぞれの鏡で出入り可能ですが、他者の鏡を通って他者の部屋へ行くことは出来ないことになっています。

» 以下ネタバレあり

こころ達は自分達が皆同じ中学に通う予定だったことを知ります。お互いの通っていた小学校もすぐ近く。同じ街にみんながいる(ハワイにいるリオンは別ですが)ということで、こころ達は城の外でも会えるのではないかという希望を抱きます。

「あの、――お前たち、一日だけでいいから、三学期に」
(中略)
「学校に、来てくれない? 一日。本当に、一日、だけでいいから」

(本文より)

3学期から急遽学校を転校することになりそうだというマサムネ。3学期という中途半端なタイミングであること、そして転校することで城に来られなくなるかも知れないことから、
1日だけでも学校に行って急な転校を避けようとします。
ひとりだけで学校に行くのは心細いからみんなに来てほしい…マサムネの頼みを受けて、こころ達は同じ日に学校に行くことを決意します。

そして迎えた決戦の日。意を決して登校したこころでしたが、そこに仲間の姿はありませんでした。更に「嬉野くんは?」と尋ねたこころに養護の先生は「そんな生徒はいない」と告げます。
誰かが嘘を付いた訳でも裏切った訳でもない。何故かは分からないけれど城の外で会うことは出来ないことをこころは悟ります。

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7人の現実世界

» 以下ネタバレあり

3学期がはじまってすぐのあの日、確かに皆学校に行ったのに会えなかったこころ達。それどころかお互いの存在すら確認出来ませんでした。
この状況に対してマサムネが立てた仮説が「パラレルワールド」。7人はそれぞれ別の世界の住人だと言うのです。そう考えて話をすると、同じ街なのにところどころ違う景色、同じ中学なのに違うクラス数、3学期の始業式の日…こころ達はお互いの状況に少しずつ差があることに気付きます。
ところが“オオカミさま”はパラレルワールド説を否定します。「外で会えないとは言っていない」とも。
でも確かに7人は会えませんでした。一体どういうことなのでしょうか?

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» 以下更にネタバレあり

物語終盤、実は7人はそれぞれ過ごしている時代が異なっていたことが判明します。異なる時代の雪科第五中学に通っているから会うことが出来なかったのです。
皆が生きているのは同じ世界。でも年齢が違う。“オオカミさま”の言う「会えないとは言ってない」は「中学生の姿同士では会えない。違う年齢、違う姿では会えるかも知れない」という意味でした。

それぞれの本名と今生きている時代は以下の通り。

名前本名時代生年
スバル長久 昴(ながひさ すばる)1985年1969年
アキ井上 晶子(いのうえ あきこ)1992年1976年
こころ安西 こころ(あんざい こころ)2006年1992年
リオン水守 理音(みずもり りおん)2006年、ハワイ1992年
マサムネ政宗 青澄(まさむね あーす)2013年1998年
フウカ長谷川 風歌(はせがわ ふうか)2020年2005年
ウレシノ嬉野 遥(うれしの はるか)2027年2013年

7年ずつずれた世界から来ていた7人。城の中では同じ中学生として過ごしていましたが、最年長のスバルと最年少のウレシノの年の差はなんと44歳。親子以上の差だったというのはびっくりですね。

(2019.11.17追記)
★それぞれの時代や現実世界での7人の繋がりに関しては別の記事にまとめました→『かがみの孤城』で描かれている時代と登場人物の繋がりをまとめました(ネタバレあり)

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5.“城”に関する謎

“願いの鍵”の在り処

こころ達7人はそれぞれ“願いの鍵”を探していましたが、“願いの部屋”への入り口含め見つけることが出来ずにいました。
そんなこころ達に“オオカミさま”は「ヒントは出している」と告げるのみ。そのヒントが何かすら分からないままタイムリミットが近づいていきます。

» 以下ネタバレあり

城の最終日が近付いたある日、ひとりのメンバーがペナルティーをおかします。その日城に行っていなかったことで連帯責任を免れたこころは、皆を救うためにひとりで“願いの鍵”を探します。

赤ずきんじゃない。“オオカミさま”は――

(本文より)

リオンが残した一言と、狼に食べられるというペナルティー、

「そりゃもう、頭から丸のみ」

(本文より)

これまでの“オオカミさま”の発言、

「ただし、童話よろしくお母さんを呼んできて腹かっさばいて、かわりに石を詰めるとかやめろよ」

(本文より)

集められたのは7人…こころが導き出した答えは『七ひきの子やぎ』。物語の中で助かった子やぎが隠れていた場所=大時計の中こそが“願いの鍵”の在り処だったのです。

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“オオカミさま”の正体

少女の体に狼のお面。神出鬼没で謎につつまれた存在の“オオカミさま”。この物語の仕掛け人とも言える彼女の正体も物語の最後で明らかになります。

» 以下ネタバレあり

「姉ちゃん」
声がして、狼面の少女が弾かれたように顔を――上げる。声の方向を、光が消えたばかりのはずの鏡を振り返る。
水守理音が、そこに立っていた。

(本文より)

城が閉まる3月30日が姉の命日であること、城が姉の持っていたドールハウスにそっくりだったこと、『七ひきの子やぎ』は姉がよく自分に読み聞かせてくれた本…リオンははじめからもしかしたら姉の実生(みお)が“オオカミさま”なのではないかと思っていたと言います。
確かに振り返るとリオンは“オオカミさま”に食って掛かろうとしたマサムネを強く制止したり、クリスマスにケーキとプレゼントを“オオカミさま”に渡したりしています。これも姉だからというのがあったのでしょう。

また、7年ずつずれた世界から来ていた7人でしたが、アキとこころ、リオンの間だけは14年開いていました。抜けている1999年(1998年度)に該当するのが“オオカミさま”こと実生。病気のために「雪科第五中学に通う予定だったけれど通っていない」中学1年生だったのです。

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単行本は550ページという分量ですが読みだしたら止まりませんでした。特に後半の謎が明らかになっていく過程は圧巻です。そして読み終わると諸々の伏線が気になってもう一度読み返したくなります。
はじめはぎこちなかった7人がかけがえのない仲間になっていく様子、物語の随所に見られる人のあたたかさと強さ、学校がほぼ世界のすべてになってしまう中学生の気持ち。謎以外の描写も丁寧で、読みごたえのある1冊です。
現実は物語のように上手くいかないことだらけです。それでも、この物語は「大丈夫だよ」と見守ってくれると思います。

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