「……人が死ぬということは、大切な人と別れるということなんですね」
(本文より)
信州の病院を舞台とした 『神様のカルテ』シリーズの2冊目です。
目次
1.あらすじ
「24時間、365日対応」の本庄病院で変わらず奮闘している主人公・栗原一止。
医師6年目となった4月、東京の病院から同級生の医師・進藤辰也がやってきます。
かつては「医学部の良心」と呼ばれた辰也でしたが、すっかり変わってしまった姿に一止は困惑します。
そして辰也のことが解決したと思った矢先、今度は本庄病院を揺るがす事件が起こり…ひとりの人間として必死に戦う人々の姿が描かれます。
不眠不休も急な呼び出しも日常茶飯事。一止が当たり前のように過ごしているので当たり前のように読んでしまいますが、とても過酷な世界です。
医師だってひとりの人間で、それぞれに家族がいて、それぞれの人生がある。当然であるはずのことが忘れ去られているのではないか、改めて考えさせられる一冊です。
2.新しい登場人物
『神様のカルテ2』で新しく出てきた登場人物です。
医療関係者
所属 | 名前 | 紹介 |
本庄病院 | 進藤 辰也(しんどう たつや) | 一止の同級生の血液内科医。 東京の病院に勤めていた。 老舗蕎麦屋の息子。 |
御影 深雪(みかげ みゆき) | 南3病棟の看護師。 1年目の新人。 | |
内藤 鴨一(ないとう かもいち) “古狐先生” | 消化器内科副部長。 『神様のカルテ』から登場しているが、『2』で本名が判明。 | |
松前 徳郎(まつまえ とくろう) | 検査科技師長。 | |
本庄 忠一(ほんじょう ちゅういち) “サンタクロース” | 5代目院長。62歳。 「24時間、365日対応」の医療を唱えた張本人。 白い美髯がトレードマーク。 | |
金山 弁次(かなやま べんじ) “大蔵省” | 事務長でありナンバー2。 昔は東京で財務関係の公務員をしていた。 | |
帝都大学祈念病院 | 進藤 千夏(しんどう ちなつ) | 小児科医。 一止と辰也のひとつ下の後輩で辰也の妻。旧姓・如月。 |
乾診療所 | 乾(いぬい) “河馬親父” | 元本庄病院外科部長、副院長。 今は診療所を運営。 大狸先生は「外科の河馬親父」と称す。 |
※“ ”内はあだ名
患者とその関係者
『神様のカルテ』では患者の名前は松本市近辺の地名から付けられていましたが、『神様のカルテ2』では全ては見つけられていません。
名前 | 紹介 | 名前の由来 |
留川 トヨ(とめかわ とよ) | 肺炎患者、92歳女性。 栗原ファンクラブ最高齢。 | |
留川 孫七(とめかわ まごしち) | トヨさんの夫。95歳。 結婚して70年。 | |
四賀 藍子(しが あいこ) | 再生不良性貧血患者、25歳女性。 | 松本市の四賀地区 *以前は四賀村 |
泉(いずみ) | 90歳、辰也の患者。 | |
会田(あいだ) | 糖尿病患者、40歳男性。 | 松本市会田 *四賀地区に属する |
御嶽荘の住人、ほか
名前 | 紹介 |
鈴掛 亮太(すずかけ りょうた) “屋久杉” | 御嶽荘「銀杏の間」に越してきた住人。 信濃大学農学部の1年生。20歳。 |
内藤 千代(ないとう ちよ) | 古狐先生の妻。 |
進藤 せつ(しんどう せつ) | 辰也の母。 |
進藤 夏菜(しんどう なつな) | 辰也と千夏の娘。3歳。 |
※“ ”内はあだ名
3.「引きの栗原」エピソード
『神様のカルテ2』の第一話『紅梅記』も一止が救急外来の当直で引いているシーンからはじまります。
この日やってきた救急車は6台、救急車以外でやってきた患者は36人。古狐先生によると、平日の夜の当直では「ちょっと普通じゃない」人数とのこと。
中には花粉症の目薬をもらいにきただけという典型的なコンビニ受診の患者もいるのですが、一止は淡々と対応をします。患者の意識を考えさせられるシーンです。
4.「この町に、誰もがいつでも診てもらえる病院を」
本庄病院の「24時間、365日対応」を支える、大狸先生と古狐先生が学生時代に交わした約束です。
» 以下ネタバレあり
古狐先生は大狸先生が中学生の時に母親を亡くしたことを一止に話します。
突然心筋梗塞で倒れ、対応出来る医師がいる病院までの50kmの道程を救急車で搬送している最中に亡くなった、と。
一方の大狸先生は、内藤夫妻に何故子供がいないのかを一止に話します。
ふたりに子供が出来、もう少しで生まれるという頃、千代夫人が救急車で運ばれました。帝王切開を行わなければ母子ともに命が危ないという事態なのに、最寄りの病院には婦人科医が不在。
婦人科医のいる最寄りの病院までの30分以上の道程を搬送している間に胎児は亡くなり、千代夫人も子供の産めない体になったのです。
本庄病院を支えるふたりの医師が自らの悲しい経験を元に本気で戦ってきたこと、そしてお互いに自分のことでなく相手の話をするところからふたりの絆がうかがえます。
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5.物語を彩る植物
各話のタイトルが『紅梅記』『桜の咲く町で』『花桃の季節』『花水木』といずれも花の名前を含むのをはじめ、『神様のカルテ2』には多数の植物が登場します。
カラマツ
漢字では落葉松と書くことからも分かる、落葉針葉樹です。
美ヶ原および御嶽山のシーンで登場します。
紅梅(こうばい)・白梅(はくばい)
『神様のカルテ』シリーズの舞台である松本では、梅は3月頃に開花するようです。
本庄病院裏手の川沿いには紅梅の古木が、御嶽荘の玄関先には紅梅と白梅がそれぞれ見られます。
桜(さくら)
松本の桜の開花は4月上旬だそうです。
本庄病院裏手の川の堤防沿いに連なる桜並木のほか、深志神社、松本城のシーンでも見られます。また、榛名は高遠町(高遠城址公園)のコヒガンザクラの撮影に出掛けます。
夾竹桃(きょうちくとう)
夏頃に赤や白の花を咲かせる木です。強い毒性がありますが、広島市では原爆により75年間草木も生えないと言われたところにいち早く咲いた花として、市の花になっているそうです。
一止が大学時代に住んでいた学生寮の庭先など、大学時代の回想シーンに登場します。
花桃(はなもも)
4~5月、1本の木に朱色、白、桃色と3色の花を咲かせます。
「蕎麦屋しんどう」の軒先、本庄病院裏手の川沿いなどに見られます。
花水木(はなみずき)
4~5月に白や薄い桃色(薄紅色、と言うべきでしょうか)の花を咲かせます。 花桃に続いて「蕎麦屋しんどう」の軒先に登場します。また本庄病院の窓からも見られます。
五葉松(ごようまつ)、雛罌粟(ひなげし)
五葉松は盆栽としても人気のある木です。雛罌粟は虞美人草(ぐびじんそう)やコクリコとも呼ばれ、5~6月頃に薄い花びらの花を咲かせます。
いずれも古狐先生の家で見られます。立派なお宅のようですね。
駒草(こまくさ)
夏、7~8月に花を咲かせる高山植物で、環境の厳しいところに育つことから「高山植物の女王」とも称されるそうです。
こちらも御嶽山のシーンで登場します。
このような花の描写から季節の移り変わりを感じることが出来ます。
と言ってもプロローグからエピローグまでわずか3か月。花は目まぐるしい日々の癒しでもあるのかも知れません。
(2019.04.21追記)
★『神様のカルテ』シリーズに関する記事はこちら→夏川草介 著『神様のカルテ』シリーズに関する記事の一覧