この本に出会った時の驚きと、読み終えたときの感動は今でも忘れません。
私は学生時代にリコーダーを吹いていました。
「リコーダーって小学校の音楽で習うあれでしょ?」と思った方、半分はあたりで半分ははずれです。
誰でも一度は演奏したことがあるあのリコーダーだけではなく、小さなもの大きなものぱっと見リコーダーに見えないものまで使って、アンサンブルをしていました。
目次
1.『第二音楽室』との出会い
この本に出会ったのは図書館で、年末の長期貸し出しに合わせて何か借りようと思って棚を眺めていたときでした。
音楽室という単語に惹かれて手に取った本の裏表紙がリコーダーだったときの驚き。
そしてリコーダーを吹いていた人間からすれば想像以上、期待以上の作品に出会えた感動。
リコーダー吹き、より正しくはリコーダーアンサンブルに打ち込んだことのある方には是非ともおすすめしたい一冊です。
なお本作は短編集ですが、リコーダーの登場する『FOUR』についてご紹介します。
ちなみに文庫版は表紙がリコーダーです。
2.リコーダーの登場する短編『FOUR』のあらすじ
卒業式でBGMを演奏するために作られたリコーダーアンサンブル。
メンバーは中学1年生の男女4人。ソプラノ、アルト、テナー、バスの四重奏に取り組みます。
メンバーが決まり、パートを決め、曲を決め、練習を重ねていき、本番を迎える。その過程が丁寧に、時にはちょっとマニアックすぎるくらいに描かれます。
3.作品の魅力
以下リコーダーアンサンブルに馴染みのない方には少々分かりづらい話かも知れませんがご容赦ください。
リコーダー吹きに取っての『FOUR』の魅力は丁寧にしっかりとリコーダーアンサンブルが描かれていることです。
みんなで同じ旋律を吹くでもソロでもなく「リコーダーアンサンブルの演奏が」描かれています。
クライネソプラニーノやコントラバスに触れられていて
C管F管という楽器の違いの説明があって
そもそも主人公達が吹くのはプラスチックではなく木製のリコーダーで
演奏前には楽器をあたため、チューニングをして
…これだけでテンションが上がってきませんか?
バスの吹き方やロングトーンの伸ばし方といった演奏面の話。
本番、ソプラノが合図を出してはじめる演奏。曲間でのつば抜き。
お互いを見合って、お互いの音を聴きあって、ひとつの演奏を作っていく様子。
どれもが懐かしくて、確かにリコーダーアンサンブルの世界で。
取り上げられている曲にも思い出があり、頭の中でリコーダーが鳴り響いていました。
4.リコーダーについて知りたい方は
成り立ち、種類、吹き方など、ヤマハのページにまとめられています。
楽器解体全書 リコーダー(ヤマハ株式会社)
ヤマハのリコーダー、使っていたという方も多いのではないでしょうか。
佐藤多佳子さんは『一瞬の風になれ』執筆時、取材に数年かけたという話でしたが本作『FOUR』も綿密な取材に基づくものでしょうか。
まさかリコーダーアンサンブルの経験がおあり…ということはないですよね。
重なり合う4人の音と思い、卒業式当日の演奏風景も美しいです。
同じ演奏は二度と出来ないのが音楽です。もう戻ることの出来ない瞬間がまぶしく、少し切なく感じられました。
(2019.03.17 全体に加筆・修正を行いました)