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砂川雨路 著『私たちは25歳で死んでしまう』:平均寿命25歳の世界を考える

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平均寿命二十五歳は、世界を知るにも愛を伝え尽くすにも、あまりに短い。

(本文より)

目次

  1. あらすじ
  2. 平均寿命25歳の世界
  3. 管理された世界の外側
 

1.あらすじ

二十五年。
人類の平均寿命である。
あくまで平均値なので、三十歳近くまで生きる者もいれば、二十歳ほどで死ぬ者もいる。おおむね二十五年が人の一生のすべてだ。

(本文より)

未知の細菌による毒素の影響で人類の平均寿命が25歳になってしまった世界。種の存続のために結婚と就労は管理され、ひとりでも多くの子を産むことが推奨されています。
この世界で「普通」に生きていく人がいる一方で、生きづらさや社会への疑問を感じている人や「普通」の外に一歩踏み出そうとする人もいます。6つの短編を通して、様々な生きる方が描かれます。

収録作品

『模範的幸福』
『別れても嫌な人』
『ハッピーエンド』
『ハハトコ』
『花嫁たち』
『カナンの初恋』

2.平均寿命25歳の世界

作中の人物が学んだ知識によると、約500年前に隕石が飛来し、隕石に付着していた未知の細菌による毒素の影響で、100年の間に世界の人口は半分以下に減少しました。人間はこの毒素を排出することも解毒することも出来ず、耐えられる限界=おおむね25年が平均寿命になりました。

「普通」の一生

この世界での一般的な人生はこのようになります。

  • 生後半年で親元を離れ、6歳まで「子どもの家」と呼ばれる施設で育つ。学校に入ると同時に寮暮らし。
  • プライマリースクールおよびミドルスクールで学ぶ。
  • 15歳になる年に決められた相手と結婚し、決められた仕事に就く。
  • 子供をつくることは夫婦の義務となっており、早ければ結婚後すぐ妊娠することも。
  • 定年の決まりはなく、仕事をするのが難しくなった段階で退職する。
  • 23歳と半年から年金が支給される。
  • 身体機能の衰えを感じてきたら、エンディングハウスと呼ばれる終身介護施設に入居。
  • 平均すると25歳で亡くなる。

子供が生後半年で親元を離れるのは子育てで就労復帰と次の妊娠が遅れるのを防ぐため、結婚相手や仕事が決められているのも妊娠出産の機会が損なわれるのを防ぐため…いずれも人類を存続させるため、徹底的に管理された世界となっています。

結婚

ミドルスクール最終学年の初夏(年度は秋始まりなので、卒業の3か月程前)に結婚相手の通知を受け、卒業式の翌日に結婚式を挙げます。写真は届くものの、結婚相手と顔を合わせるのは結婚式の当日です。
結婚式は夫婦がこれから生活する地区で一斉に実施され、祝辞のあと、一組ずつ個室で宣誓、署名、記念撮影を行います。作中で「大人になるための儀式」と表されていること、15歳で成人となっていることから、成人式も兼ねたイベントであると思いました。

個々人の遺伝子情報が登録されており、子供の出来やすさも加味して結婚相手が決められているようです。後述する長命種の場合、遺伝子的に相性のいい相手が見付かるまで結婚が遅れることもよくあると述べられています。

とにかく夫婦優遇、離婚単身者冷遇の社会制度なのだ。

(本文より)

決められた相手との結婚を拒否することは出来ない上に、離婚すると家具が備え付けられた住宅への入居、日用品の支給といった恩恵がなくなり、医療負担増、年金支給額減など社会保障の点でも不利になります。逆に子供を多く産むほど手当やエンディングハウス入居といった点で優遇されるようになります。
結婚相手と合わなかったときに離婚するか、我慢して生きていくのか…前者の選択をした夫婦のその後を描いた『別れても嫌な人』では「普通」から外れることの厳しさの一端が垣間見えます。

仕事

15歳で決められた仕事に就くことになっています。就労先の希望は出すものの、能力や人数だけでなく結婚相手(居住地)との兼ね合いもあると考えられ、希望がかなうとは限りません。ただ、20歳までは転職も出来るようです。
登場人物の勤め先は各種工場、カフェ、学校、子どもの家、銀行、研究所などで、仕事の種類自体は現代と変わらないように思いました。

専門の勉強や訓練が必要な仕事、芸術やスポーツ関連などある程度は才能に左右される仕事がどうなるのかは気になります。スポーツに関する描写はなかったので不明ですが、芸術に関しては、図書館や絵本が登場していること、ホールが演劇会で使われているとの記述があることから、関連する仕事はあるはずです。
作中に登場する医師は後述する長命種なので、このような仕事も長命種の割合が多い可能性はありますね。

老化

短命種の老化と長命種の老化は異なる。短命種は毒の蓄積で身体機能が衰えていくことを老化という。見た目に変化はないが、身体は内側から崩壊を始める。

(本文より)

老化の始まりとして、手足のしびれやこわばり、強い倦怠感、目のかすみ、震え、といった症状が挙げられていました。老化が始まる年齢はもちろん、進行も個人差があり、徐々に体の自由が利かなくなる場合も、あっという間に亡くなる場合もあるそうです。

長命種

毒素への耐性を持ち、平均寿命を大きく上回る年齢まで生きることが出来る人種を指します。
人口の1%未満で、多くは遺伝子検査により早い段階で長命種であることが判明し、英才教育を受けます。将来的には統一政府や行政府などの要職に就きます。
『ハハトコ』の主人公は長命種に対して、長く生きる特殊な体のためか、精神がねじ曲がった、傲慢な人が多い気がすると考えています。ただ、ミドルスクールの教師であるタカハタのように物腰のやわらかな長命種の人ももちろんいます。

長命種の寿命は現代の人類に近いものと考えられます。平均寿命25年は短いですが、かといって平均寿命25年の世界で自分だけが生き続けるのも苦しいですね。

3.管理された世界の外側

決められた相手と結婚し、決められた仕事に就く。愛する相手と一緒になることが出来ない。子供を作ることが全て。自分の子供を自分で育てることが出来ない、それどころか、会うことすら出来ない。
この管理された世界に疑問を抱く登場人物もいます。疑問を抱きながらもそのまま生きていく人もいれば、管理された世界の外で生きていく人もいます。

» 以下ネタバレあり

作中では、管理をよしとしない人達による集落の存在が語られます。

「集落が放置されているのは、存続が不可能だからです」
(中略)
「どの村も少人数で、効率的な人口管理もしていないため、必ず数世代で途絶えます。そして彼らは反社会的ではありますが、この世界の仕組みをひっくり返そうという野心を持っているわけではない。(中略)彼らは行政府から暗黙のうちに捨て置かれた存在なんです」

(本文より)

管理された世界の外側で生きる人々。作中のとある登場人物に取っては希望であり、彼女はそこに向かうことを決意します。また、別のある人物の子は決められた結婚を拒否し、恋人と駆け落ちをします。それぞれの結末は語られませんが、本人達に取って幸せなものであることを願います。

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この世界で「普通」の一生から外れるリスクは大きいと思いますが、作中には「普通」ではない人生を送ろうとする人物も登場します。いくら管理しても個人の気持ちまではコントロール出来ないと思います。

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