いま、綴りたい言葉がある

本の感想や舞台、漫画について、気のおもむくままに。

読書

額賀澪 著『沖晴くんの涙を殺して』を読んで住野よる 著『君の膵臓をたべたい』を思い出す(ネタバレあり)

投稿日:

※タイトル通り、『沖晴くんの涙を殺して』および『君の膵臓をたべたい』のネタバレありの記事ですのでご注意ください。
※両作品が似ていると言いたいのではないですし、両作品を比較して優劣をつける意図もありません。

目次

  1. 『沖晴くんの涙を殺して』あらすじ
  2. どうして『君の膵臓をたべたい』を思い出したのか
 

1.『沖晴くんの涙を殺して』あらすじ

「喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、恐れ。この五つが、人間の感情の基本なんだそうです」
「それが、どうしたの」
「多分、俺は津波で死ぬはずだったんです。家族と一緒に、他の大勢の人と一緒に、海に流されて死ぬはずだったんです。でも死神か何かが気まぐれに、俺と取り引きをしてくれたんですよ。五つの感情のうちの《ネガティブな方の四つ》を差し出して、それと引き換えに、生きて帰ることができました。だから、ポジティブな《喜び》だけが残りました」

(本文より)

北の大津波で家族を失った高校生・志津川沖晴。命と引き換えに4つのネガティブな感情を無くしたという沖晴は、がんで余命1年と告げられて故郷に戻って来た(元)音楽教師・踊場京香と出会います。
いつも笑っている沖晴を放っておけない京香。京香と過ごす日々の中で、ひとつ取り戻してひとつ失い、大切なものを得て、少しずつ変わっていく沖晴。
階段と坂の町でふたりが過ごした、切ないけれどあたたかい日々が綴られていきます。

若干ネタバレ感がありますが各話のタイトルが素敵だなと思います。

第一話 死神は呪いをかける。志津川沖晴は笑う。
第二話 死神は嵐を呼ぶ。志津川沖晴は嫌悪する。
第三話 死神は命を刈る。志津川沖晴は怒る。
第四話 死神は連れてくる。志津川沖晴は泣く。
第五話 死神は弄ぶ。志津川沖晴は恐怖する。
第六話 踊場京香は呪いをかける。志津川沖晴は歌う。
最終話 死神の入道雲

2.どうして『君の膵臓をたべたい』を思い出したのか

物語のはじまり

踊場京香の葬式は、階段町の山頂付近にある小さな斎場で行われた。

(『沖晴くんの涙を殺して』より)

クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。

(『君の膵臓をたべたい』より)

いずれも鍵となる人物が亡くなったあとからはじまり、過去を振り返る物語になっています。

あらすじ

両作品とも大雑把には「主人公の少年が余命わずかの女性との出会いをきっかけに変わっていく話」ではないかと思います。
志津川沖晴は感情を無くしているという点で、『君の膵臓をたべたい』の主人公は他人との関わりの点で、どちらもちょっとずれていると言えます。踊場京香は乳がんで余命1年程度、『君の膵臓をたべたい』の山内桜良は膵臓の病気で余命1年未満ですが、ふたりとも表向きは明るく生きており、主人公に影響を与えていきます。

身近にある死

「沖晴君は私が死んじゃうのを怖いって言ったけどさ、もしかしたら明日、貴方が交通事故で死んじゃうかもしれない。通り魔に刺されて殺されるかもしれない。私よりずっと早く、沖晴君が死ぬかもしれない。死なんて、自分で思っているよりずっと近くにあるんだから」

(『沖晴くんの涙を殺して』より、踊場京香の言葉)

『君の膵臓をたべたい』の結末を知っている方なら、この台詞にはっとさせられるのではないでしょうか。
膵臓の病気を患っていた山内桜良の葬儀から始まる物語。多くの方は桜良が病気で亡くなったと受け取って読み進めたのではないかと思いますが、実際は「通り魔に刺されて」亡くなってしまいます。

まだ時間のある僕の明日は分からないけれど、もう時間のない彼女の明日は約束されていると思っていた。

(『君の膵臓をたべたい』より)

私も、余命に限りがある桜良には余命までは確実に生きる保証があると思っていました。そうではなく、本当に誰だっていつ死ぬか分からない、死はずっと身近にある、というのが両作品に共通していると感じます。
なお京香は通り魔に刺されることも交通事故に遭うこともなく、余命と言われていた1年を少し超えた頃、眠るように亡くなっていきます。

額賀澪さんと住野よるさん

『拝啓、本が売れません』で額賀さんは、住野さん(と朝井リョウさん)をライバル視していました。額賀さんと住野さんは同時期のデビューで、額賀さんは『屋上のウインドノーツ』『ヒトリコ』が、住野さんは本記事で取り上げている『君の膵臓をたべたい』が2015年6月に刊行されています。

双葉社

『沖晴くんの涙を殺して』『君の膵臓をたべたい』のいずれも双葉社から刊行された作品です。『沖晴くんの涙を殺して』の巻末で双葉社の既刊紹介として『君の膵臓をたべたい』が載っており、これは狙っているのか?と思ってしまいました。

繰り返しになりますが、両作品が似ていると言いたいのではありません。中身は全く違う話です。
感情を無くした沖晴は人間離れした不思議な力を持っているのですが、この力がある感情を取り戻す引き金となるシーンが(予想出来る展開ではあるのですが)切なかったです。

-読書

Copyright© いま、綴りたい言葉がある , 2024 All Rights Reserved Powered by STINGER.