朱野帰子さんの『会社を綴る人』を読みました。
会社に限らず、言葉の力、文章を書く力の大切さを再認識しました。
(朱野さんと言えば、『わたし、定時で帰ります。』がドラマ化されることが決まりましたね。こちらの作品についてもいつか書きたいと思います)
目次
1.あらすじ
読み書きしか能がない男・紙屋さんがなんとか就職したのは老舗製粉会社。
総務部に配属されるも一般的な仕事は何も出来ず、上司には期待されず失望もされず、同僚にはブログで叩かれ、周りから呆れられながらも「文章を綴る」ことで自分の働き方を見つけていきます。
紙屋さんの書く文章がほんの少し会社を変え、周りの人を変え、やがて大きく動こうとする会社にも影響を与えていきます。
「文章を書く」だけでなく「仕事が出来ない」という特徴が生かされるところも面白いです。
2.もし私が主人公・紙屋さんの同僚だったら
ただ文章を書くだけなら誰にでも出来るのかも知れません。でも、伝えたい相手に届ける適切な言葉を綴るのはとても難しいことだと思います。
だから紙屋さんのような人がいてもいいのかも知れないとどこかでは思います。実直で真っ直ぐで会社のことを大切に思っている人。自分の力を生かして必死に綴る人。
でもやっぱり自分の同僚だったら相当いらいらするでしょうね。読み書きが得意、ではなくて読み書きしか能がなく他の仕事はてんで出来ない、というレベルなので。
こんな彼と一緒に仕事ができる栗丸さんを尊敬します。
3.この物語はフィクションですが、身バレを防ぐために仮名が使われています
見出しの通りではありますが、これだけだと意味が分からないでしょうか。
この本はとある企業の一社員である紙屋さんが、いずれネットに公開することを考えて綴った文章となっています。そのため基本的に人名や会社名は仮名で書かれています。
» 仮名と本名の比較を開く(ネタバレあり)
仮名 | 本名 | 備考 |
紙屋(かみや) | 菅屋 大和(すがや やまと) | 総務部 「紙みたいなペラペラ社員」 |
榮倉(えいくら) | 高倉 英果(たかくら ひでか) | 開発部 |
最上 満輝(もがみ みつてる) | 錦上 重光(きんじょう しげみつ) | 創業者 |
最上 良輝(もがみ よしてる) | 錦上 雅光(きんじょう まさみつ) | 二代目 |
最上 輝一郎(もがみ きいちろう) | 錦上 光一郎(きんじょう こういちろう) | 三代目 |
栗丸(くりまる) | 不明 | 総務部 |
渡邉(わたなべ) | 渡邉(わたなべ) | 営業部 よくある名前なので仮名にはしていない |
玄野(くろの) | 小野 善一(おの ぜんいち) | 常務 |
角谷(かどたに) | 不明 | 製粉工場 「廊下も直角に曲がる実直な人」 |
大山(おおやま) | 小山 創成(こやま そうせい) | 品質保証部 「実家は地元の名士で大きな山も持っている」 |
欧沢(おうさわ) | 水沢 貴一(みずさわ きいち) | 専務 「前は、大手乳飲料メーカーのヨーロッパ支店長」 |
最上 千恵子(もがみ ちえこ) | 不明 | 初代の妻、元会長 |
榊原 伸一(さかきばら しんいち) | 檜原 恭二(ひのはら きょうじ) | 関東製粉(東洋製粉)常務 |
最上製粉 | 錦上製粉 | |
鶴屋製パン | 亀屋製パン | |
関東製粉 | 東洋製粉 |
仮名と本名を比べると、漢字二文字目をそのまま残し、一文字目はその人の特徴や本名に関係した名前にしていると見られます。
このくらいの伏せ方では簡単にどこの会社のことかばれそうなものですね…。
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4.会社は文書で溢れている
口頭ではなく文書で残す。それが会社の原則だ。会社は夥しい数の社内文書によって、様々な社員の手によって綴られている。
(本文より)
本作でも種々の文書が出てきます。紙屋さんが触れたものとしてメール、履歴書、社史、報告書、提案資料、安全標語、社内報、議事録、社内規定、社長スピーチ。会社と関係ないですが読書感想文に卒業式の答辞にブログ。
重要な記録から日常の連絡まで、本当にたくさんの文書で会社は成り立っていると思います。
途中ペーパーレスの話も出てきます。何を紙で残して何をデジタル化すべきか、一概に紙が無駄とも言い切れないので難しい話ですね。